インドでは11年生(日本の高校2年生に当たる学年)になると、「ストリーム(Stream)」と呼ばれるコースに分かれ、より専門的な勉強を開始します。ストリームには、科学(Science)、商業(Commerse)、そして、人文学(Arts / Humanities)の3つがあります。
インドの生徒たちはどのようにコースを選び、学んでいるのでしょうか?
科学・商業・人文学ストリームの違い
科目
主な違いは、学ぶ科目に見られます。
科学(Science)は、物理学や化学などの科目から成り立っています。生物学と数学のいずれかを選択科目として追加で学ぶことができます。
商業(Commerce)は、ビジネス、経済学、会計学を主要科目として含んでいます。選択科目には数学、情報実践、秘書実践があり、生徒はこれらの選択科目から好きな科目を選ぶことができます。一方、その他の理系科目は選ぶことができないようになっています。
芸術/人文科学(Arts/Humanities)の主要科目には心理学、歴史、地理学、社会学、文学、言語、サンスクリット語、ヒンディー語などが含まれています。
進路
科目に加えて、各ストリームで目指す進路にも違いがあります。
- 科学(Science)ストリーム
医者、技術者、エンジニア、ソフトウェア技術者、科学者などを目指します。
- 商業(Commerce)ストリーム
銀行家、起業家、金融、会計士など、多様な職業を目指す人がいます。
- 人文学(Arts/Humanities)ストリーム
ジャーナリスト、写真家、作家、映画製作者、考古学者、心理学者、グラフィックデザイナー、インテリアデザイナー、教師など幅広い職業を目指す生徒たちが選択しています。
それぞれのストリームの学習内容
次に、それぞれのストリームでどのような勉強ができるのか紹介していきます。
《科学ストリーム》
科学ストリームは、非医療科学(PCM)と医療科学(PCB)の2つの分野から成り立っています。2つの分野どちらも、物理学と化学が共通の科目として含まれます。
違いは第三の科目の選択にあります。技術者、エンジニア等の分野を希望する学生は、通常第三の科目として数学を選択します。一方、医学分野のキャリアに興味を持つ学生は、生物学を選択します。
上記の科目に加えて、英語またはヒンディー語を選択科目として学ぶ必要があります。
《商業ストリーム》
主要科目には、経済学、ビジネス・スタディ、会計学、情報学実習、数学などがあります。
経済学
経済学は商業において最も重要かつ求められる科目の一つです。生産、輸送、消費について包括的な理解を持つことが、経済学の基本的な目標になっています。また、経済学は社会科学の一分野であることから、社会内での資源の配分と最適な利用、商品とサービスの生産・交換・利用についても研究します。
ビジネス・スタディ
ビジネス・スタディは、起業から経営までの活動について学びたい生徒を対象にしています。授業では、産業やビジネスに関する基本的知識を身に着け、企業の研究を通して企業と社会の相互関係について具体的に学ぶことができます。
会計学
会計学は、商業分野で仕事をしたい人にとって人気のある科目の1つです。会計学は企業または個人の商取引の記録、分類、報告を行う際に必要とされます。
数学
商業ストリームにおいて、数学は重要な役割を果たしています。数学の基本的な概念を理解することで、その知識を売上予測、マーケティング、会計、在庫管理など幅広い仕事で役立てることができます。
《人文学ストリーム》
人文学の科目としては、歴史、経済学、地理学、政治学、英語、心理学、社会学、哲学、音楽等があります。更に、以下のような分野を学ぶこともできます。
人権とジェンダー学
人権とジェンダー学は、基本的な権利とジェンダーに関連する問題を理解するための科目です。これにはフェミニズム、LGBTQ研究などが含まれます。さらに基本的な人権に関する学習も行われます。
情報実践
情報実践は、コンピュータのハードウェアとソフトウェアの基本を学ぶことができる科目です。この科目の下で扱われるトピックには、データベース管理システム、プログラミングへの導入、プログラミング言語などが含まれます。このコースは、Webアプリの設計、プログラム開発に役立ちます。
公共行政
公共行政は、さまざまな公共政策の策定、実施等に取り組む分野です。地域社会のより良い福祉に向けて、コミュニケーションとプレゼンテーションの能力を高めることが重要とされています。
家政学
家政学は、栄養、健康、成長の知識を科学的に学ぶ分野です。将来、アパレル関係、食品と栄養などの様々な専門分野で仕事をすることに繋がります。
法律学
法律学は、社会と法の相互関係を研究します。政治的機関の性質、法の源泉、法の進化、社会と法の相互関係、市民および刑事裁判所のシステム、家族司法制度、個人の自由とプライバシー、社会的平等などを学ぶことができます。将来的には、司法、保険、社会サービス、社会保障などの分野で働くことを目指します。
マスメディア研究
マスメディア研究は、さまざまなメディアの影響、その歴史、内容に焦点を当てるものです。マスメディア研究を学ぶことで、テレビ、新聞、映画、ジャーナリズム、出版などの業界で活躍の可能性が広がります。
アントレプレナーシップ
アントレプレナーシップはビジネススタディと似ていますが、ビジネスベンチャーの起業、組織管理、事業開発に関する基本的な知識を学びます。
どのストリームでも大学で学ぶような専門的な科目を学習できることがわかりました。高校生からここまで専門的な知識を身につけることで、インド人が社会に出た後も様々な分野で活躍していくことがイメージできます。
ストリーム選択の今後:NEP 2020による変化
インドでは10年生で「Board exam」と呼ばれる全国統一試験を受け、その結果次第で選択できるストリーム(コース)が決まります。将来の進路が決まるこの試験に向けて、インドの子どもたちは必死に勉強を重ねています。
ただ、このような試験の存在により、中等学校の段階で大半の時間が試験対策とその準備に取られてしまっている状況があります。試験対策を優先するあまり、柔軟性や好奇心を刺激する機会が少ないことに以前から懸念が示されてきました。
このような状況を受けて、インドの新学習指導要領に当たるNational Education Policy 2020 では、この試験対策に充てている時間を、実生活でも役に立つ学習の時間にするべきだとしています。具体的には、どのコースでも、自分の選んだ科目に加えて体育、美術、vocational skillsと呼ばれる職業訓練などの授業がカリキュラムに含められるようになります。
中等教育段階でこのような柔軟性と科目選択の自由が与えられることで、学生の能力を高め、それぞれに合った学習機会の確保とライフプランニングを促すことが期待されます。
まとめ
インドでは高校生のうちから自分の進みたい道に合わせてストリームと呼ばれるコースに分かれ、専門的な学習をしていることがわかりました。しかし、近年では中等教育の段階からこのようなコース選択があることで、子どもたちの柔軟性や好奇心を生み出すことができないのではないかという懸念の声も上がるようになりました。
その声に答えるように、政府は新たな学習指導要領(NEP2020)で幅広い科目をカリキュラムに入れることを提案し、子どもたちの新たな興味・関心に繋がるようにしました。
これからも専門性と柔軟性を兼ね備えたカリキュラムを目指し、インドの教育は進化していくでしょう。
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