あの会社のCEOもインド人!インド人IT人材育成の歴史と制度

IT大国、インドのIT人材が世界各地で活躍しています。

IT業界をリードする人物としては、例えば、GoogleのCEOであるスンダー・ピチャイ氏や、CEOやMicrosoftの会長兼CEO サティア・ナデラ氏がいます。インドではどのように優秀なIT人材を育成しているのでしょうか?

 

インドのIT人材はなぜ世界的に有名になったのか?

インド最難関として知られるインド工科大学(Indian Institute of Technology、略称IIT)は、多くの優秀なIT人材を輩出しています。

 

インド工科大学は、初代首相のジャワハルラール・ネルー氏によって1951年に設立されました

実は、インド工科大学のモデルはアメリカのマサチューセッツ工科大学です。彼はインドの近代化や発展にあたり科学技術が重要な役割を果たすと考えており、マサチューセッツ工科大学を参考にしながらインド工科大学を設立しました。
出典:Council of Indian Institute of Technology「History」 

 

1951年にインド工科大学が設立された当初は、インドはIT業界で今のような存在感はありませんでした。IT大国としてインドやインド工科大学が世界的に注目され始めたのは、設立から40年以上が経過した1990年代からのようです。1990年代には衛星等で世界の通信が結ばれ始め、インド工科大学の卒業生はインドから国際ITビジネスに参入することができるようになりました。

更にインドのIT業界の存在感を高めたのは、「2000年問題(Y2K)」です。2000年問題とは、1900年代から2000年代への切り替わりにあたり、世界中のコンピューターやデジタルシステムに誤作動を引き起こすことが懸念された問題です。1990年代までは、コンピューターのシステム上、「19XX」の「XX」の部分を書き換えることで年を変えていましたが、2000年に入ると、新たな「2XXX年」という形が必要になりました。世界中で2000年問題に対応するために、優秀で、かつ英語でコミュニケーション可能なIT技術者が必要でした。高い技術と英語力のあるIT技術者を大量に供給できたのは当時世界でインドだけだったことから、インドがIT業界において躍進するきっかけとなりました。

 


高校までのICT教育

現在、インドではどのようなICT教育が行われているのでしょうか?

インドの子どもたちは、中学生・高校生のうちから学校で情報技術について学んでいます。早期からプログラミングに親しみ、Python等の言語を使って自分でゲームを作ったり、3Dモデルを使って科学分野の研究に取り組んだりしている生徒もいます。高校生に聞いたところ、最近は人工知能(AI)について興味を持ち学んでいる生徒も多くいるようです。

 

ICT education in India

 

学校でのICT教育方針

2020年に発行された新たな国家教育方針(National Education Policy 2020 、NEP2020)では以下のことが述べられており、やはり国として重きを置いている分野であることがわかります。

  • 数学と数学的思考は、人工知能、機械学習、データサイエンスなどが関わる多数の分野や職業におけるインドの指導的役割や、インドの将来にとって非常に重要であること
  • そのため、教育課程全体において数学や計算的思考に重点を置くこと
  •  初等段階では、パズルやゲームのような様々な革新的な方法により、数学的思考をより楽しく魅力的にすること
  • コーディング(プログラミング)を伴うアクティビティはミドル・ステージ(6年生以降)より導入されること

出典:Ministry of Human Resource Development, Government of India「National Education Policy 2020」

 

高校までで学ぶICT科目

インドで採用されている主要なカリキュラムの一つであるCentral Boad of Secondary Education (CBSE) では、ICT教育はミドルスクール(6~8年生)から始まります。生徒が自らの興味に基づいて選択できる科目の中にITに関わる科目があり、中学・高校生のうちから、学校の授業を通して情報技術について学ぶことができます。

各学習段階ごとに提供されるICT科目をご紹介します。

 

ミドルスクール(6~8年生)では、以下の4科目が提供されています。

  • 人工知能
  • 情報技術
  • コーディング
  • データサイエンス(8年生以降)

 

セカンダリースクール(9〜10年生)では、以下の4科目が提供されています。

  • コンピュータ・アプリケーション
  • 情報技術
  • 人工知能
  • データサイエンス

 

シニア・スクール(11〜12年生)では、以下の科目が提供されています。

  • エンジニアリング・グラフィックス
  • 情報学実践
  • コンピュータサイエンス
  • 情報技術
  • ウェブアプリケーション
  • タイポグラフィーおよびコンピューターアプリケーション
  • 地理空間テクノロジー (GIS) 
  • 電気技術
  • 人工知能
  • データサイエンス

 

出典:Central Boad of Secondary Education (CBSE)「CBSE 2022. Secondary School Curriculum 2022-2023」「CBSE 2022. Senior School Curriculum 2022-2023

 

コース選択

インドでは、シニア・スクールの11年生、12年生になると、ストリーム(Stream)と呼ばれる以下の3つのコースに分かれます。IT分野の大学に進みたい場合、科学(Science)を選択し、大学進学前から科学分野を重点的に学ぶ形になります。

  • 科学(Science)
  • 商業(Commerce)
  • 芸術・人文科学(Arts/Humanities)

 


大学でのICT教育

インド工科大学

冒頭でお伝えしたインド工科大学(IIT)は、現在インド全土に23校あります。

最初の10 年以内に設立された5校(IITカグラプル校、IIT ボンベイ校 、IIT マドラス校 、 IIT カンプール校 、 IIT デリー校)は「Old IIT」と呼ばれ、今でも特にレベルが高い大学として知られています。

写真:インド工科大学デリー校

 

その他の大学

高いレベルのICT教育を行っている大学は、インド工科大学だけではありません。

University Grants Commission (UGC) によると、インドには1000を超える高等教育機関(大学)があります。他にどのような大学が優秀なIT人材を輩出しているのでしょうか?

 

大学ランキング

U.S. News & World ReportTimes Higher Education (THE) が発表するインドのコンピューターサイエンス分野の大学トップ25のうち、両方にランクインしていた大学をMinistry of Education の発表するインド国内ランキングと共にご紹介します。

 

大学名 U.S. News & World Reportインド国内ランキング Times Higher Education

世界ランキング

インド国内

大学ランキング

(分野区分なし)

インド工科大学

Indian Institute of Technology (IIT)

3 Kharagpur校

5 Bombay校

6 Delhi校

8 Madras校

9 Kanpur校

10 Roorkee校

501–600  Ropar校

601–800  Indore校

 801–1000 Patna校

学校により異なる。

Overall Rankingの

1位はIIT Madras校

タパー工科大学

Thapar Institute of Engineering & Technology

1 601–800 31
インド科学研究所

Indian Institute of Science (IISC) – Bangalore

2 251–300 1
ビルラ工科大学 ピラニ

Birla Institute of Technology & Science Pilani (BITS Pilani)

6 801–1000 15
アンナ大学 チェンナイ

Anna University Chennai

7 801–1000 12

出典:U.S. News & World Report「Top Computer Science Universities in India」、Times Higher Education (THE)「World University Rankings 2023」、Ministry of Education「India Rankings 2020: University」「India Rankings 2020: Overall」を参考にSHIN EDUPOWER作成

 

学科・プログラム

コンピューターサイエンス関連の学部・学科にはどのようなものがあるのでしょうか?

以下の3大学を例に、コンピューターサイエンス関連の学部・学科をご紹介します。ビッグデータ解析に特化したコースなどもあるのが興味深いです。

 

<タパー工科大学>

学部:コンピューターサイエンス・工学部

プログラム詳細:

コンピューターエンジニア:学士課程

コンピューターサイエンスとエンジニアリング:学士・修士課程

コンピュータサイエンスとビジネスシステム:学士課程

ソフトウェアエンジニアリング:修士課程

コンピューター応用:修士課程ーMaster of Computer Applications(MCA)

コンピューター科学と工学:博士号

 

<インド科学研究所>

学部:電気電子工学コンピューターサイエンス学部 (Division of Electrical, Electronics, and Computer Science:EECS)

プログラム詳細:

コンピューター サイエンスとオートメーション (CSA)

電気通信工学 (ECE)

電気工学 (EE)

電子システムエンジニアリング (ESE)

 

<アンナ大学 チェンナイ>

学部:コンピューターサイエンス・工学部

プログラム詳細:

・学士課程

工学学士(B.E.)

コンピューターサイエンス・工学学士(M.E. CSE)

・修士課程

工学修士ソフトウェア工学(M.E. Software Engineering)

工学修士 コンピューターサイエンス・工学:ビックデータ解析(M.E. CSE Spln in Big Data and Analytics)

工学修士 コンピューターサイエンス・工学:オペレーションリサーチ(M.E. CSE Spln in Operations Research)

出典:Thapar Institute of Engineering & Technology. Department of Computer Science and Engineering

Indian Institute of Science, Bengaluru. Department.、Anna University

 

まとめ

インドの子どもたちは早期からICT教育や数学的思考の教育を受けており、大学では世界トップクラスの大学で専門的に学べる環境があります。国家としても戦略的な人材育成に力を入れており、今後も引き続きインドが世界のIT業界で重要な地位を担っていくことが予想されます。

 

インドの教育について深く知りたい方へ

インドで多数のトップ校と繋がりを持つSHIN EDUPOWER株式会社では、インドと日本の中高生同士のオンライン交流や、インドへのスタディツアーを企画しております。発展著しいインドで先進的な教育を受ける同年代や大人との交流を通して、世界の見え方が大きく変わる経験を得られます。是非お気軽にお問い合わせください。

SHIN EDUPOWER株式会社のページはこちら

 

 

Last Updated on 2023-10-10