教育システムの開発は、常に世界中の人々の関心事です。その中でも「宿題」については、その在り方や手法、価値など様々な議論が活発に行われています。
昨今、インドでは子どもたちの能力やスキルの育成に重点を置く教育システムへの変革を進めています。そんなインドの宿題事情について、宿題の内容や実践方法も含めてご紹介します。宿題をより有意義な学習体験にするためのインドの取組みについて、見ていきましょう。
宿題の長所と短所
日本では、多くの子どもたちが日常的に「宿題」に取り組んでいます。漢字や計算の練習、関心のあるテーマを調査してまとめるなどといった課題に取り組んでいる子どもたちも多いのではないでしょうか。
宿題に関する調査によると、以下のような長所と短所があるといわれています。
<長所>
- 学校での学習をより深く理解することができる
- 勉強習慣や学習スキルを身に着けることができる
- 自己指導力や自己管理力、時間管理能力、好奇心、独立した問題解決力など、学習面だけではなく、非学術的な領域にも応用できる力を身につけることができる
- 親が学校を理解する機会につながるなど、家庭と学校の連携機会をつくる
<短所>
- 学校や学習に対する拒否感が生まれる可能性がある
- 身体的および精神的な過度な疲労を引き起こす可能性がある
- 余暇時間や地域の活動機会が制限される可能性がある
- 学校と家庭が異なる教育方針があった場合、混乱を招く可能性がある
インドの宿題
宿題を意義あるものにする
インドでは、2020年に子どもたちのランドセル(スクールバッグ)の負担軽減を目的としたガイドライン「スクールバッグ・ポリシー2020」が制定されました。その中で「学校の宿題に関するガイドライン」を示しました。
スクールバッグ・ポリシー2020では、宿題が、子どもたちや保護者にストレスを与える原因となる可能性を示唆しています。また、子どもたちの遊ぶ時間や家族との時間を奪う可能性もあること、機械的な学習(本を写したり、インターネットから得た情報をそのまま作品にしたりなど)に及ぶ可能性があることも問題視しています。
ガイドラインでは、宿題には年齢や学年に応じた適切な内容の設定を推奨しており、子供たちが自主的に取り組めるよう工夫することを期待しています。また、宿題の量も適度に調整されており、生徒が学校での授業に集中し、自主学習の時間も確保できるよう配慮されています。
どんな宿題が出る?
ここからは、「スクールバッグ・ポリシー2020」で提示されている宿題の量や内容について、見ていきましょう。
<小学1~2年生>
宿題はありません。代わりに家での夕方の過ごし方や遊んだゲーム、食べた食べ物などについて、クラスで話す機会を作っています。
<小学3~5年生>
1週間で、最長2時間程度で行うことを推奨しています。宿題の内容については、子どもたちがより創造的な取り組みができるように、子どもたちの興味や状況に応じてテーマを設定し、物語やポスター、詩や対話、レポートによって表現する宿題が出されています。
テーマ例は、下記の通りです。
- 夕方の日課や夕食について
- 自宅での役割分担
- 昨日の夜にした家族の話や、参加したパーティー、遊んだゲームの話
- 最近起きた出来事 など
<中学生(ミドル・スクール6~8年生)>
1日最長1時間、週に約5~6時間程度の宿題を行うことを推奨しています。下記のようなテーマで、社会の課題に向き合う書き物・ポスター・インタビューが宿題となっています。
- 現代の問題についての物語、エッセイ、記事の執筆
- 地域の問題についての記事の執筆
- 電力とガソリンの節約策
- 環境問題に関するポスターやスローガンの作成 など
<高校生(セカンダリー・スクール(9~10年生)、シニア・スクール(11~12年生)>
1日2時間、週に10~12時間程度の宿題を行うことを推奨しています。教科の枠を超えた教科横断型のプロジェクトワークが宿題になっています。
実際に、宿題にかけている時間は?
長時間の学習は、1人ですべてしているわけではなく、インドの子どもたちは保護者と一緒に宿題をすることが多いようです。
「スクールバッグ・ポリシー2020」に掲載されている保護者アンケートによると、家庭での宿題時間は、2時間程度という回答が40%を超え、4時間以上という回答も10%以上ありました。
ケンブリッジ大学傘下の教育団体であるCambridge Assessment International Education (Cambridge International)が、世界中の教師と生徒約2万人を対象に行った調査(※)によると、インドの学生は宿題にかける時間が多く、40%が毎日2〜4時間を宿題に費やし、37%が週末にも同じくらいの時間を費やしていると発表。インドの学生の課外活動に対する積極性を示しました。
「スクールバッグ・ポリシー2020」の一方で、実際は家庭での学習に多くの時間を費やしている現状が伺えます。
※THE ECONOMIC TIMESより「Indian students engage more in extra classes, co-curricular activities than peers: Cambridge study」
インドの夏休みの宿題
ところで、インドの長期休暇中の宿題はどんなものがあるのでしょうか。
インドの夏休みの宿題は、日本のそれと比較すると、より創造性と探究心を育むような内容が特徴的です。特に英語の宿題は、単なる文法問題にとどまらず、文化理解や自己表現を重視した課題が多く見られます。
<小学校:基礎力と表現力の育成>
小学校低学年では、身の回りにあるものや家族について英語で表現するなど、基礎的な英語力を養う課題が出されます。絵を描いたり、ビデオを作成したりするなど、視覚的な要素を取り入れた活動も豊富です。これは、言語だけでなく、表現力や創造性を育むことを目的としています。
高学年になると、インドの文化や歴史に関する課題も増えてきます。例えば、インド映画を鑑賞し、そこから得た価値観をまとめたるなど、より深い学習が求められます。
<中学校:読解力と発信力の強化>
中学校では、読解力と発信力を養うための課題が中心となります。インドの民話を読解し、その内容をまとめたり、自身の経験について英語で記述したりするなど、文章作成能力の向上を目指します。
また、社会問題に関する調査やインタビューなど、より実践的な課題も出されます。例えば、児童労働問題について調査し、レポートを作成するなど、社会への関心を高め、問題解決能力を育成する狙いがあります。
<高校:高度な英語力と研究能力の育成>
高校になると、英語の宿題はさらに高度なものになります。雑誌作成など、総合的な英語力と研究能力を問われる課題が出されます。これは、大学進学や将来のキャリアに向けて、必要なスキルを養うことを目的としています。
宿題を減らすことでできること
学校での学習を補填したり、学校での学習をより円滑にするために、家庭での学習をより充実させることに議論が向かいがちですが、子どもたちの学びのために重要なのは、「宿題を減らすこと」という考え方が、インドでも注目を集めています。
Sansad TVのインタビュー内で、デリー・パブリック・スクール(有名な私立学校グループ) Sahibabad校のダイレクター兼校長であるジョティ・グプタ博士は以下のように言及しています。
- 量ではなく、学校での質の高い教育を提供すること
- 宿題を減らすということは、経験的な学習を学校で行うということ
- 機械学習に焦点を当てるよりも、能力を子どもたちの中で育てること
- 『楽しいこと』を通して、子どもたちが学ぶことを保障すること
- 子どもたちに自主勉強(self study)の時間を与え、互いに学ぶために、互いに協力する時間が与えられること
インタビューの内容はこちらのYouTubeをご覧ください。
まとめ
かつて、宿題は学生の学力を高めるための不可欠な要素とされてきました。しかし、インドでは、この常識に一石を投じるような教育改革が進んでいます。
2020年に制定された「スクールバッグ・ポリシー2020」は、子どもたちの学習意欲を阻害する可能性のある過度な宿題に警鐘を鳴らしました。特に低学年では宿題をなくし、高学年でも量を制限することで、子どもたちが遊びや家族との時間、そして何より、自ら学ぶ喜びを味わえるようにと提唱しています。
インドの教育改革が注目するのは、単に宿題の量を減らすことではありません。それは、教育の質そのものを見直す機会なのです。詰め込み型の学習から、体験学習や探究学習へとシフトし、子どもたちの主体性を育む教育を目指しています。インドの教育改革は、私たちに「宿題の本当の意味」を問い掛けています。
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Last Updated on 2025-01-15