公立小学校教員が見たインドの子どもたち〜夢に向かう積極性を育む教育〜

語り手:S先生(静岡県内の公立小学校教諭・4年生担任、外国にルーツを持つ児童への日本語の取り出し授業も担当)
視察テーマ:インドの教育現場・社会事情の視察、それによる日本の小学校教育への還元
主な視察先:インド現地の私立学校、日本語教育機関、スラム地域 ほか

 

はじめに:なぜ今、公立小学校の教員がインドへ?

インドを訪問し、現地の名門私立学校や日本語教育機関、スラムエリアや地方都市など、多角的な視点でインドの教育と社会を視察されたS先生。日本の公立学校で教壇に立つ先生の目に、インドの教育現場や子どもたちはどう映り、日本での授業や子どもたちの育成にどう還元できるのかをじっくり伺いました。

 

―― なぜ、今回インドの視察をすることにされたのでしょうか?

静岡県を本社とする多国籍企業によるインドへの進出が近年急速に進んでいる点、そして普段の勤務校で外国にルーツを持つ児童への日本語指導を担当している背景から、インドでの学校教育や日本語学習の実態を直に見ることが目的でした。

 

1. 「社長になりたい!」堂々と高い志を口にする子どもたち

―― 視察先の学校で、インドの子どもたちと接してどんなことを感じましたか?

インドの学校では、積極性を大切にした教育が行われていることを感じました。
まず視察先の学校自体が温かく迎え入れてくださったことが印象的で、インドに対して親しみを感じることができました。そこで学ぶ子どもたちもすごく積極的で元気いっぱいで、自分からどんどん話しかけてきてくれました。
「将来どんな大人になりたい?」と尋ねると、「将来は社長になりたい」「科学者になりたい」と、どの子も次々に自分の夢を話してくれました。

 

―― 日本の小学生と比較すると、どのような違いを感じますか?

現在担任している4年生も含め、日本の子どもたちも心の中にはそれぞれ素敵な夢や思いを持っていると思います。ただ、「そんなのできないと言われるのではないか」「笑われたらどうしよう」という恥ずかしさや周囲の目を気にして、なかなか言葉にできなかったり、そもそもまだそこまで具体的に描けていない子も多いかもしれません。
一方でインドの子どもたちは、自分の考えややりたいことがとてもはっきりしており、夢を口に出すことにためらいや恥ずかしさがないのだと感じました。

 

今回の視察ではデリー首都圏以外の地方も視察しましたが、特に地方に行くと、道にいきなり牛や羊などの動物が現れて、動物を避けて進まなくてはいけないことがあり驚きました。多様性や予測不可能な環境の中でも進んでいく社会の様子を強く感じ、そういった中で、インドの子どもたちの高い積極性も育まれているのだろうと感じました。

 

2. ICTと早期英語教育の先進性、日本語学習者の意欲

―― 学校の設備や学習環境、授業の様子はいかがでしたか?

インドの中でもトップクラスの名門私立学校を訪問したところ、電子黒板を活用したデジタル授業が展開されており、ICT教育の浸透度や活用のスピード感においては、日本の一般的な公立学校よりも先行している部分が見られました。
また、幼い頃からどの教科も英語を使って学んでいくというインドの私立校の様子を実際に視察して、その先進性も体感することができました。

 

―― 日本語を学ぶ学生が通う日本語学校も視察をしていただきました。

はい。日本のアニメや漫画をきっかけに関心を持ち、「日本で学びたい」「日本で働きたい」という、キャリアへの強い思いを持って日本語を学んでいる学生の姿を見ることができました。純粋に「日本が好き」という気持ちで勉強している人も中にはいましたが、学習目的はなんであれ、前向きに、意思を持って一生懸命学んでいる姿が印象的でした。
私が学校で担当している日本語学習者は小学生なので、今回視察に伺った日本語教育機関と対象としている年齢層は異なりますが、覚えた知識を使って何とか自分の思いを伝えようとするコミュニケーションのあり方には共通する部分がありました。

 

3. スラム視察での気づき ― 日本の私たちに何ができるのか

―― 先進的な学校だけでなく、今回はスラム地域なども視察されましたが、いかがでしたか?

スラム地域の視察は、教員としてだけでなく、一人の人間としてもいろいろと考えさせられる体験でした。蛇口をひねれば当たり前のように安全な水が飲める日本とは異なり、「清潔な飲み水を確保すること」「日々の生命を維持すること」そのものに努力している人たちがいるということを実感しました。スラム街にある公立小学校の前も通りましたが、日本の公立小学校とは環境が大きく異なるのだろうということも現地に行くことで感じられました。
何か手助けができれば…と思いつつ、では果たして何ができるのか、ということを日本の子どもたちと一緒に考えるいいきっかけにしていきたいと思います。

 

4. 日本の教育活動にどう活かすか ― 4年生の実践に向けて

―― 今回の視察での気付きは、今後の教育活動にどのように生かしていけそうですか?

現在担当している4年生の実践において、具体的に次の点で活かしていきたいと考えています。

 

① 社会科(水やごみ処理の学習)での生きた教材として
4年生の社会科では「水はどこから送られてくるのか」「ごみの処理の仕方」といった公共インフラの仕組みを学びます。教科書の知識にとどまらず、インドの写真や実際の生活の様子を紹介することで、「日本もかつては同じ課題を抱え、試行錯誤して改善してきた歴史がある」ことを伝えます。安全な水や清潔な環境のありがたみを感じ、環境保全のために自分たちが家庭や学校で何ができるかを深く考える授業をつくりたいです。

 

② コミュニケーション手段を身につけるための外国語活動(英語)として
実は私自身、視察中にインドの学校の教育関係者や子供達からとっさに英語で質問された際に言葉に詰まり、うまくコミュニケーションが取れずに悔しい思いをしました。それにより、英語の重要性を改めて感じる機会になりました。
英語を単なるお勉強として捉えるのではなく、インドのように「世界中の人々とコミュニケーションを取る手段」として学ぶ意欲を引き出したいです。

 

おわりに:世界を知るきっかけを子どもたちへ

―― 今回の視察の感想を教えてください。

インドは今、世界からの注目が高まっていますし、昔に比べて身近になってきている国だと思います。インドに渡航する機会も今後増えてくると思いますが、そういった中で、インドのポジティブな面、ネガティブな面を両方見つつ、過去の日本とも重ね合わせたり、インドの先進的な姿に圧倒されたりしながら、新しく学べる点が多くあるはずです。教員としてインドという国に触れることは、非常に良い刺激となりました。
日本の子どもたちに対しては、日本の中だけに視野を留めず、諸外国の多様性を知ることの意義や、異なる環境に生きる人々の姿に思いを馳せることの重要性を伝えていきたいです。