インドには、「15マイル行けば 方言が、25マイルでカレーの味が、100マイルで言葉が変わる」という面白いことわざがあります(1マイル=約1.4km)。このことわざが表すように、インドは多言語社会として知られており、121もの言語(1万人以上に使われている言語)が確認されています。
そして、地域によって言語が異なるため、複数の言語を使って生活をしています。なぜ、インドの人々はこれほどまでに多言語を操ることができるのでしょうか。本稿では、インドの多言語国家としての魅力や可能性について紹介していきます。
インドの言語の歴史
インドは、世界でも類を見ない言語の多様性を誇る国です。その背景には、長い歴史の中で様々な民族が行き交い、文化が融合してきたという事実があります。
インダス文明の時代から言語が存在し、ペルシア、アラブ、モンゴルなどの支配によってさらに多様化しました。そして、イギリスの植民地時代には英語が導入され、インド社会に大きな影響を与えました。
インドの言語の多様性は、地理的な要因も無視できません。広大な国土を持つインドでは、地域ごとに気候や風土が異なり、独自の言語が生まれました。
また、ヒンドゥー教、イスラム教、仏教など、様々な宗教が独自の言語や文字を持つことも、言語の多様性に影響を及ぼしています。
このように、インドの言語の多様性は、歴史、民族、宗教、地理など、様々な要因が絡み合って発展していきました。
インドの公用語
インドでは、ヒンディー語や英語が広く使用されていますが、以下22の言語が州・連邦によって公式言語として認められています。
アッサム語 | オディア語 | ウルドゥー語 | カンナダ語 | カシミール語 |
グジャラティー語 | タミル語 | テルグ語 | プンジャビ語 | ベンガル語 |
マラティ語 | マレー語 | サンスクリット語 | シンディ語 | ヒンディー語 |
ネパール語 | マニプリ語 | コンカニ語 | ボド語 | サンタル語 |
マイティリー語 | ドーグリー語 |
インドの言語教育
続いて、多様な言語があるインドの教育現場を見ていきましょう。
グローバル化が進展する中、インドでは英語教育が非常に盛んです。多くの学校で英語が教育言語として採用されており、幼い頃から英語に触れる機会が豊富です。
※インドの英語教育については、こちらの記事もご覧ください。
一方で、近年では母国語教育の重要性も再認識されつつあります。2020年の教育改革「NEP2020」では、インドのすべての言語が尊重され、就学前の読み書きの学習では、家庭で話されている母語が重視されています。
※インドの就学前教育については、こちらの記事も御覧ください。
また、学校には多様な言語を話す生徒が集まっています。親戚が違う言語を話すといった場合も少なくありません。子どもたちは幼い頃から、多様な言語に触れる生活を送っているのです。
言語の授業
では、実際の言語の授業についてみていきましょう。生徒は学校で、3言語を学んでいることが多いようです。
北インドの学校では、ヒンディー語が第一言語のため「ヒンディー語・英語・第三言語」、南インドの学校では、「それぞれの州の言語・英語・第三言語としてヒンディー語」を学んでいます。
セカンダリースクール(日本の高校にあたる)の言語の授業では、英語・ヒンディー語を含め、国全体としては以下の37の言語から選択して学ぶことができるようです。各学校では、そのうちのいくつかを選択肢として用意している形です。
ウルドゥー語 | プンジャビ語 | ベンガル語 | タミル語 | テルグ語 |
シンディ語 | マラティ語 | グジャラティー語 | マニプリ語 | マラヤム語 |
オディア語 | アッサム語 | カンナダ語 | アラビア語 | チベット語 |
フランス語 | ドイツ語 | ロシア語 | ペルシャ語 | ネパール語 |
リンボ語 | レプチャ語 | ボド語 | 日本語 | タンゴル語 |
ブティヤ語 | スペイン語 | カシミール語 | ミゾ語 | マレー語 |
サンスクリット語 | ライ語 | グルン語 | タマン語 | シェルパ語 |
タイ語 | コクバラ語 |
多言語社会のインド人が持ちうる能力とは?
ブリティッシュ・カウンシルはイングリッシュ・インパクトレポートで、多言語能力が個人と社会にもたらす多大なメリットを発表しました。同レポートは、IELTS(国際英語試験システム)を開発・運営する同機関が、多言語話者に関する広範な研究に基づいて作成したものです。
レポートによると、多言語能力は、異文化理解を深め、国際的なビジネスや交流を円滑にするなど、社会的なメリットをもたらします。また、個人レベルでは、脳の柔軟性を高め、認知機能の発達を促すことが示唆されています。具体的には、作業記憶能力や、不要な情報を抑制する能力などが向上し、アルツハイマー病などの神経変性疾患の発症リスクを低減する可能性も指摘されています。
従来、複数の言語を同時に学習することは、言語習得に混乱や遅れをもたらすという懸念がありました。しかし、同レポートは、この考え方が誤りであることを示しています。多言語を話す子どもたちは、最終的には一言語を話す子どもたちと同等の言語能力に達し、さらには語彙力において優れているケースもみられます。
多言語環境で育った子どもは、より高い認知能力を身につける可能性が高いと考えられているのです。
この研究結果は、母国語と英語教育のバランスを重視する日本の教育現場に、新たな視点をもたらします。多言語能力は、単にコミュニケーション能力の向上だけでなく、個人の成長や社会の発展にも大きく貢献する可能性を秘めているのです。
まとめ
多言語社会として知られるインドでは、英語力のみならず、多様な文化への理解力や適応力、国際社会で活躍する力を育んでいることを感じます。私たちは、インドの多言語社会を通じて、言語を学ぶスキルに加えて、多様な文化を理解し、尊重し、共に生きるための考え方を学ぶことができるのではないでしょうか。
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Last Updated on 2025-02-19