皆さんはインドの教育についてどんなイメージをお持ちでしょうか。近年インド人の世界的な活躍により、インドの先進的な教育への注目が高まっています。
本記事では、インドの教育に興味がある方に向けて、インドの教育の概要と最新動向についてご紹介します。
なぜ今インドの教育に注目すべきか?
インドの教育事情に世界的な注目が集まっている理由について、ここでは主な2つをご紹介します。
- 世界一の人口と多様性
- 世界的企業のCEOを多数輩出
世界一の人口と多様性
インドの人口は、中国を抜いて2023年に世界一になりました。世界銀行のデータによると、インドの14歳以下の子供の数は約3億6千万人で、世界の子供の5〜6人に1人、約15%がインド人という計算になります。
広大な国土を持つインドでは国の中でも様々な言語が使われています。公用語であるヒンディー語を母語として話しているのは、実はインド人の一部に過ぎません。同じインド人同士であっても地域が違うと言葉が通じず、英語で会話することがあるほどです。
また、宗教も多様で、ヒンドゥー教徒の他にもイスラム教徒やシーク教徒など、様々な信仰の人がいます。多様性が重視される現代社会の中でも、インドは世界一の多様性を持つ国だと言えるでしょう。その中で、子どもたちがどのような教育を受けているのかに注目が集まっています。
出典:The World BankData「Population ages 0-14, total」
世界的企業のCEOを多数輩出
GoogleやMicrosoft、Adobe等、数多くの世界的IT企業のトップがインド人になっていることをご存知でしょうか。
流暢な英語力と高いITスキルを持ったインド人は、アメリカ等の海外で活躍し、実力で経営層に上り詰めています。インド最難関のインド工科大学(IIT)の卒業生は世界中の企業から引く手数多で、一千万円以上の高額な給料での採用オファーを受けることもあると言われます。GoogleのCEOであるスンダー・ピチャイ氏もIITの卒業生です。
また、IT企業だけでなく、スターバックスやシャネルのような他分野のグローバル企業でも、インド人のCEOが続々と生まれています。
このような優秀な人材はどのように育っているのか、世界から注目されています。
インドの教育制度の概要
インドの教育システムは、8年生までの義務教育と、その先の中等・高等教育で構成されています。
インドの学校制度は、長年、10−2制(初等学校・中等学校10年+上級中等学校2年)となっていました。最初の10年間の中身は州により異なりますが、5−3−2(初等学校5年、上級初等学校3年、中等学校2年)のパターンが一般的です。後述しますが、近年この学校制度は改革が進められています。
出典:文部科学省「世界の学校体系(アジア) インド」を参考にSHIN EDUPOWER作成
インドでは、学年は1年生から12年生(日本の高校3年生に相当)までの形で数えられます。日本と同じく、新年度は4月に始まります。
11〜12年生が通う上級中等学校では、生徒はストリーム(Stream)と呼ばれる3つのコースに分かれ、より専門的な学びを深めます。
- 科学(Science):物理、化学、生物学、数学等
- 商業(Commerce):ビジネス、経済、会計等
- 芸術・人文科学(Arts/Humanities):歴史、地理、社会学、文学等
上級中等学校や大学への進学に当たっては、「Board Exam」と呼ばれる全国共通試験を受ける必要があります。
まず10年生の終わりに共通試験を受け、合格した人は上級中等学校に進学ができます。上級中等学校でのコース選択に当たっても、各科目の試験結果が影響します。
更に12年生の終わりにも共通試験があり、この結果によって進学できる大学が決まります(一部の大学では別途入学試験あり)。
学歴が将来の社会的地位や成功に直結すると言われるインドにおいて、これらの試験の結果は、学生の将来を左右する重要なものです。
インドにはどのような学校があるのか?
インドは多様性に富んだ国で、学校にも様々なレベルのものがあります。州ごとの違いなどもありますが、ここでは、私立校と公立校に分けて大きな違いをご紹介します。
私立校(Public School)
インド都市部の私立校は、幼稚園〜12年生(高校3年生相当)までの一貫校であることが多いです。学費が有料である分、設備も整っており、学校内に講堂やスポーツ施設、コンピューター教室等が整備されています。また、授業は基本的に全科目英語で行われ、幼少期から英語が身近な環境です。私立校では質の高い教育を提供していますが、高額な授業料が必要となるため、富裕層や中間層の家庭の子供が対象となります。
公立校(Government School)
インドでも公立校での義務教育の学費は無料です。ただ、一部の都市部を除き、公立校では設備や教員のレベルが不足しており、教育水準が低い傾向にあります。しっかりとした校舎がなく、屋外で学んでいるような場合も多くあります。格差解消に向けて、政府や民間の様々な取り組みが行われています。
英語で学ぶ私立校と異なり、公立校ではヒンディー語等の各地域の言語で授業が行われています。
インド式教育は何がすごいのか?インドトップクラスの私立学校の様子
デリー首都圏にあるインドトップクラスの私立校、Ambience Public School Gurugramの様子を取材してみました。インドで先進的な教育を受ける子どもたちは、毎日どのような学校生活を送っているのか見てみましょう。
1日の流れ
ここでは、8年生(日本の中学2年生に相当)の一日を紹介します。授業は一日に9コマもあるとのことです。
8:00まで 登校(スクールバス、保護者の車、保護者同伴で徒歩)
8:00〜8:15 学級会
8:15〜9:25 授業(35分×2コマ)
9:25〜9:40 中休み(スナック・ブレイクと呼ばれる軽食休憩。フルーツ等を食べる)
9:40〜12:00 授業(35分×4コマ)
12:00-12:25 昼休み(お弁当を持ってくるか、カフェテリアで食事を購入する)
12:25〜14:10 授業(35分×3コマ)
14:10〜14:30 下校
放課後 趣味のゴルフや乗馬をしたり、家庭教師と勉強をする
授業の様子
インド人は積極性がある人が多く、どの授業でも、生徒が積極的に手を挙げながら授業に参加していました。教室ではホワイトボードと電子黒板が併用されています。
英語教育とICT教育の様子を更に詳しく見ていきます。
・英語教育
学校の授業は、基本的に全て英語で行われています。英語の授業以外の数学や理科、社会といった科目も同様です。当然、教科書も全て英語で書かれています。ヒンディー語の授業のみ、ヒンディー語が使われています。
数学の教科書の例
・ICT教育
IT関連の選択授業は上級初等学校(6年生〜8年生)から始まります。単にコンピュータの操作を覚えるだけではなく、AIやコーディング(プログラミング)について学ぶことができます。また、8年生からはデータサイエンスの授業も選択可能です。中等学校、上級高等学校と進むにつれて、更に高度な授業が行われていきます。
将来グローバルIT企業のエンジニアになりたいという10年生の生徒は、既に複数のプログラミング言語を使うことができるそうです。放課後の空き時間に趣味としてゲームを作っていると話していました。
卒業後の進路
卒業後はインド国内の有名大学の他、アメリカやヨーロッパ、オーストラリア等の海外の大学へ進学する生徒もいます。英語の壁がないことから、選択肢の一つとして海外への進学が視野に入れられている環境です。
日本とインドの教育の違い
ここまでインドの教育の概要を見てきましたが、日本と大きく異なる特徴として、以下のような点が挙げられます。
幼少期から英語が身近な環境
インドの私立校では幼少期から英語での教育が行われており、日常的に英語を使う機会が多くあります。学校でも英語力を活かして海外との交流が行われている他、家族や親戚にも海外在住の人がいるなど、世界を舞台に活躍することが日本よりも身近な環境と言えます。
競争を勝ち抜くハングリー精神
世界一の人口を抱えるインドでトップレベルの大学に進学するためには、日本の何倍も過酷な競争を勝ち抜く必要があります。大変な環境ではありますが、競争を勝ち抜き高い教育を受けることで、あまり裕福ではない家庭から世界的企業のCEOにまで上り詰めた実例があります。既にそのようなキャリアを体現している大人の存在が、インドの子どもたちの挑戦の原動力となっています。
インドの教育方針改革
日本と同様に、実はインドでも近年大きな教育改革が進んでいます。
2020年、インドの学習指導要領に当たる「National Education Policy」(NEP)が約35年ぶりに見直され、インドの国内外で注目を集めました。ここでは、主な内容について見てみましょう。
教育改革の背景
近年、AIやビッグデータといった科学技術の進歩等により、世界は急速に変化しています。更にインドは今後10年の間、世界で最も多くの若者人口を抱える国だと予測されています。若者達に質の高い教育の機会を提供できるかが、変化の激しい世界の中での国の将来を左右します。このような背景から、今回の教育方針の改革に至ったそうです。
新教育方針の特徴
・あるべき教育の姿の変更
新たな教育方針では、従来の暗記型教育から、「学び方を学ぶ」(learn how to learn)教育への転換が強調されています。具体的には、暗記の内容を減らし、クリティカルシンキングや問題解決、教科の垣根を超えた創造的思考、イノベーションや変化への適応法を学ぶことに重点が置かれています。そのために、教育はより全人的(ホリスティック)かつ学習者中心で、経験的・探究的な、ディスカッションベースのものに進化する必要があるとされています。同時に、柔軟で楽しい教育という点も重視されています。
変化の激しい時代背景を受けて、日本の新学習指導要領と近い教育の姿を目指している点が興味深いです。
・学校制度の変更
今回の新方針では、学校制度が3歳から始まる「5−3−3−4制」に変更になりました。これまでインドの学校制度は6歳から始まる「10−2制」でしたが、スタートが3年早まった形です。この背景として、脳の発達の85%以上は6歳までに起こるため、幼児期の適切なケアと脳への刺激の重要性が挙げられています。
現在、社会・経済的に恵まれない子どもたちを中心に、多くの子どもたちは適切な幼児期のケアと教育にアクセスすることができていません。全ての子どもたちが教育システムにアクセスし、成長していくことを目指して、幼児期に力を注ぐことが決められたそうです。
出典:Ministry of Human Resource Development, Government of India「National Education Policy 2020」を参考にSHIN EDUPOWER作成
新教育方針の課題
新たな教育方針は出されたものの、全国的に経済・社会状況の大きなばらつきがある中で、現場に落とし込むにはまだ時間がかかる状況です。
特に今回新たに追加された幼児教育については、幼児教育に特化した教員の不足、インフラの整備不足等の課題があります。新教育方針では、遅くとも2030年までに、質の高い幼児期のケアと教育を普遍的に提供すると明記されています。様々な課題を克服し、新方針で意図した成果を出せるのか、引き続きインドの教育に注目が集まります。
インドの教育について深く知りたい方へ
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Last Updated on 2024-08-09
Shin Edupower Pvt. Ltd.(インド ニューデリー)及びSHIN EDUPOWER株式会社(日本)の創業者・代表取締役。
株式会社リコー勤務時に発案したインドの教育課題解決の為の新規教育ソリューションがJICAの「BOP民間ビジネス連携」に採択され、2014年よりインドに駐在。インド政府教育機関、国際NGOとの共同プロジェクトの総括責任者として、新たな教育メソッドの開発支援等を実施した。
同社を退職後、Shin Edupower Pvt. Ltd.を創業。2021年11月よりインド商工会議所の1つであるIICCI(Indian Importers Chambers of Commerce & Industry)の日本代表に就任。
ラグビー選手としては、高校3年時に大阪工大高校(現:常翔学園)にて全国大会優勝。その後、社会人ではリコーラグビー部(現リコーブラックラムズ東京)に7年間在籍。高校日本代表や日本代表Aとしても海外遠征等に参加した。
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