クリエイティビティと起業家精神を育てる!インドのSTEAM教育

インドでは、巨大な人口と急速な経済成長が進む中、グローバルな技術競争力を獲得するために「STEM教育」や「STEAM教育」への注力を加速させています。インド政府は、若者たちが将来の職業に備えるためにこういった能力を磨くことを重要視し、STEM教育やSTEAM教育の普及に取り組んでいます。

この記事では、インドのSTEM教育、STEAM教育の現状と取り組みについて見ていきます。

 

STEAM教育とは

「STEM教育」は、Science(化学)、Technology(技術)、工学(Engineering)、数学(Mathmatics)の四つの教育分野を総称した言葉です。1990年台にアメリカで提唱され始めた考え方です。

以下の4つの言葉の頭文字を取っています。

 

・S:Science:観察や実験を通して、物事に法則性を見つけ出すこと。

・T:Technology:様々な事象や物事に対し、最適な条件や仕組みを見つけること。

・E:Engineering:より良い仕組みをデザインしたり、人に役立つものを作り出すこと。

・M:Mathmatics:数量を論理的に表して使いこなすこと。

 

STEM教育は論理的思考力や技術的な知識を教科を横断して身につけるという点で重要でしたが、感性や創造的な側面が抜けているという指摘もありました。

このSTEMに、「A=Art」として創造性やリベラルアーツの要素がプラスされたのが、「STEAM教育」です

 

・S:Science

・T:Technology

・E:Engineering

・A:Arts:狭義ではデザインや感性、広義では美術、音楽、文化、歴史に関わる学習など文理を問わないもの。

・M:Mathmatics

 

AIの活用が進む時代だからこそ、人の持つ感性や創造性の重要度が益々高まっています。
日本の文部科学省では、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲で「A」を定義しています。複雑な現代社会に生きる市民として必要となる資質・能力を育成するため、文理の枠を超えた教科等横断的な学習を推進しています。
参考:文部科学省「STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進」

 

また、最近では更に、「STREAM教育」という言葉も出てきています。Rの定義はまだ色々なものがあり定まっていないようです。

・S:Science

・T:Technology

・R:Robot(ロボット)、Reading(読解力)、Reality(現実性)など

・E:Engineering

・A:Arts

・M:Mathmatics

 

更に「S:Sports(スポーツ)」を加えた「STREAMS」教育も出てくるなど、まだまだ進化中の概念です。

世界中で注目が集まる中、もちろんインドでもこの「STEM教育」や「STEAM教育」が行われています。

 

インドのSTEAM教育の普及に向けた政府の取り組み

インドでは、STEM教育やSTEAM 教育が積極的に推進されてきました。その結果、世界で活躍するような科学者やエンジニアを数多く輩出してきました。いくつかの注目すべき取り組みについてご紹介致します。

 

Rashtriya Avishkar Abhiyan(RAA)プロジェクト

RAAプロジェクトは、6歳から18歳の学生を対象とした科学技術教育プログラムです。このプロジェクトでは、教員の指導や教材・資料の提供など、学校制度の体系的な改善が行われています。さらに、子どもたちが理系教化を楽しく学ぶことのできる教材を備えた数学・科学クラブの充実や、科学コンテストへの参加など、科学と数学への興味を育むための活動も行われています。

RAAは、学生たちに実践的な科学技術の学習機会を提供することを通じて、彼らの創造力や問題解決能力を向上させることを目指しています。

プログラミング教育の早期導入

インドの中等中央教育委員会(CBSE)基準に準拠した民間出版社発行の教科書によると、3年生からプログラミング教育が導入されています。この取り組みにより、学生たちは早い段階でコンピュータサイエンスやプログラミングの基礎を学ぶことができます。

 

Atal Innovation Mission

「Atal Innovation Mission(アタル・イノベーション・ミッション)」は、インド政府が2016年に設立したイノベーションと起業家精神を促進するためのプログラムです。このプログラムでは、学校教育におけるイノベーションと起業家精神の培養、スキルを持つ新しいスタートアップの創出、技術や社会問題に対する解決策の開発などを目指しています。

その取り組みの一つが、「Atal Tinkering Labs(アタル・ティンカリング・ラボ)」です。

これは 学校の教育機関に設置されたラボで、ここでは生徒たちがクリエイティブなスキルを養い、実践的な学びを通じてイノベーションに取り組むことができます。彼らはプロトタイプを作成したり、新しいアイデアを実現するためのツールや技術を使いながら学びます。

 

このような取り組みにより、インドでは若い世代が科学技術の分野で優れた知識やスキルを獲得できるようになっています。大手IT企業のCEOを輩出するなど、STEM教育・STEAM教育がインドの人材育成において重要な役割を果たしていることがうかがえます。

 

STEM教育が学生にもたらす利点

STEM教育により、一般的に学生に以下のような利点があると言われています。

 

・論理的思考力が身につく
STEM教育は情報を評価し、批判的に分析する能力を養います。学生たちはデータの収集、評価、解釈を通じて客観的な視点から問題を分析し、合理的な結論を導き出すスキルを磨くことができます。

 

・問題解決能力が身につく
自ら疑問や問題を見つけ、それを解決するために科学的な思考と論理的な議論をします。それらを通して、実世界の問題に対して創造的な解決策を見つける能力が向上します。

 

・国際競争力の向上
STEM分野は世界的な競争が激しく、高度な技術と知識が求められる領域です。STEM教育を受けた学生たちはグローバルな競争環境で優位に立つことができるでしょう。高度な科学技術や数学的スキルを持つ人材はイノベーションの推進や経済成長に貢献することができます。

 

・職業選択肢が広がる
科学、技術、工学、数学の分野は、さまざまなキャリアパスを提供し、将来の需要の高い職業への進路を開拓する機会を提供します。STEM教育を受けた人々は、エンジニア、研究者、データサイエンティスト、医療専門家など、多くの分野で活躍することができます。

 

STEM教育の課題や改善点

STEM教育によって学生が受ける利点を紹介しましたが、課題や改善点も存在します。

 

・アクセスの不均衡

インドの一部地域や貧困層の子供たちは、STEM教育へのアクセスが限られている場合があります。設備やリソースの不足、適切な教育機関の不在などが原因となります。これにより、学生たちの学習機会の不平等が生じ、社会的な格差が広がる可能性があります。

この問題の解決策として、多くの大学でOpen learningが実施されています。

Open learningとは対面で試験や週に数回授業を受け、それ以外の日は自宅からオンラインで受講する学習形態のことを指します。一般的に授業料が安く、自分のペースで学習を進められるため、経済的・時間的に制約を抱える学生はOpen learningを選択することで学習機会を増やせます。ただ、Open learningはすべての高等教育機関で実施されている訳ではないため、まだ課題が残っているのも事実です。

 

・教員の不足と質の問題

STEM教育の実施には専門的な教師が必要ですが、インドではSTEM教育に対応できる資格や経験を持つ教員の不足が課題となっています。また、教員の研修やサポート体制も不十分な場合があり、教育の質や内容に影響を及ぼす可能性があります。

 

・ジェンダーの不平等

STEM分野においては、男女間での不平等な参加やキャリア選択の傾向が見られます。女性のSTEM分野への参加や進路選択が制限されることで、ジェンダーの不平等が生じる可能性があります。

 

・カリキュラムの過重化

STEM教育は理科や数学などの専門的な科目を重視する傾向があります。そのため、他の学問領域や芸術・人文科学などへの学習機会やリソースが不足する場合があります。バランスの取れた総合的な教育を提供する必要性があります。

 

まとめ

インドでは、STEAM教育やSTEM教育において様々な取り組みが行われてきました。イノベーションや起業家精神を促進するAtal Tinkering Labsを学校に設置するなど、学校教育の中でも新しい取り組みが進んでいます。いくつかの課題はあるものの、インドでは引き続きSTEM教育、STEAM教育に重点が置かれ、STREAM教育、STREAMS教育といった概念へ進化しながら、変化の激しい時代に活躍できる人材育成が進んでいくと考えられます。

 

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Last Updated on 2024-04-16