インドでは、科学クラブが活発に活動し、科学への興味関心を育むための取り組みが盛んです。この背景には、政府による力強い支援や、経済発展に伴う科学技術人材への需要の高まりなど、様々な要因が考えられます。
本稿では、インドのサイエンスクラブを中心に、同国の科学教育の現状について紹介します。
人気のクラブ活動「サイエンスクラブ」
インドでは、様々なクラブ活動が行われています。その中でも人気の高いサイエンスクラブは、学校内外で広く取り組まれています。
※サイエンスクラブ以外のクラブ活動全般については、こちらの記事を御覧ください。
VIPNETとは?
VIPNET(Vigyan Prasar NETwork of Science clubs) は VIgyan Prasar NETwork の頭文字をとったもので、1998 年に Vigyan Prasar(インド政府の科学技術省 (DST) の管轄機関)のプロジェクトとして発足しました。
VIPNETは、現在活動している、または活動予定をしているサイエンスクラブや協会、組織を統合するもので、学校や地域社会を巻き込み科学教育の普及に大きく貢献しています。
インド全土で3,512クラブあり(2024年9月現在)、カーストや宗教、言語による差別なく、インド国内の様々な地域で活動しているサイエンスクラブが参加することができます。
また、VIPNET登録クラブを州別に見ると、首都をおくデリー準州、インド州内で最も人口規模の多いウッタル・プラデーシュ州、日本と同じくらいの人口規模のマハラシュトラ州、資源の豊富なオリッサ州に多くあり、学生による科学活動が盛んに行われています。
▼VIPNET所属サイエンスクラブ分布(2020)
活動内容は?
インドのサイエンスクラブは、単に科学的な知識を教えるだけでなく、子どもたちに科学的な思考力や問題解決能力を育成し、将来の科学者やエンジニアを育成するための重要な基盤となっています。
例えば、ペットボトルを用いた水上ロケットの実験をしたり、遮光板を用いて太陽を観察したりなど、様々な体験を通じて科学技術を学ぶ機会を子どもたちに届けています。
また、VIPNETに所属するサイエンスクラブは、インド国内のVIPNETクラブ向けに組織される全国レベルのプログラムやイベント、ワークショップを通じて他のVIPNETクラブの活動を知る機会や意見交換を行っています。さらに、様々なトレーニングやキャンペーンに参加することができたり、活動に必要な人材や資料、キットなどが提供されたりしています。
加えて、地域社会との連携を深め、科学リテラシーの向上にも貢献しています。
国をあげて行われる科学教育の取り組み
インドの科学大会・展示会
インドでは、サイエンスクラブ以外にも様々な科学活動・展示会・会議等が開催され、科学教育を推進しています。
科学・技術分野における研究とイノベーションのためのイニシアティブ全国フェア
ーInitiative for Research and Innovation in STEM(IRIS)National Fair
IRISは、科学への探究心あふれるインドの若者たちが、自分のアイデアを形にし、その成果を発表できる場を提供する取り組みです。このプログラムでは、優れた科学研究を行った学生を表彰し、その才能を世の中に広く知ってもらう機会を与えています。さらに、優勝者には、世界中から優秀な高校生が集まる国際的な科学コンテスト「International Science and Engineering Fair(ISEF)」への出場権が与えられます。IRISは、1999年にスタートし、インドの若者たちの科学に対する興味を深め、イノベーションを育むことを目的として活動しています。
INSPIRE科学キャンプ
「科学に対する早期の才能の呼び込み(SEATS)」の一環として実施されている「INSPIRE」は、科学に興味を持ち、将来を期待される中学生や高校生に、科学の魅力を体験してもらうためのプログラムです。
このプログラムでは、毎年、成績優秀な約5万人の生徒が、夏や冬に開催される科学キャンプに参加します。キャンプでは、科学界のリーダーたちとの交流を通して、科学の最先端に触れることができ、自ら新しいアイデアを生み出す喜びを味わうことができます。
INSPIREの目的は、子どもたちの科学への好奇心を刺激し、探究心をかき立てることです。そして、科学を学ぶことの楽しさを実感してもらい、将来、科学の道に進もうとする意欲を高めることにあります。
子どもの科学会議
ーCSC:Children’s Science Congress
「子どもの科学会議」は、子どもたちが科学を楽しみながら学び、成長できるような場を提供することを目指しています。このプログラムでは、子どもたちは仲間と一緒に、まるで研究者のように、自ら課題を見つけ解決策を探します。
10歳から17歳までの幅広い年齢の子どもたちが参加でき、それぞれの年齢に合わせて、より深く科学の世界を探求できるよう工夫されています。子どもたちは、先生だけでなく、様々な分野の専門家からアドバイスを受けながら、自分の興味のあるテーマで研究を進めていきます。
このプログラムを通して、子どもたちは、単に知識を詰め込むだけでなく、自ら考え行動し、周りの人たちと協力することの大切さを学びます。そして、科学の面白さや不思議さを体験することで、科学者や研究者を目指すきっかけとなっています。
グリーン・グッド・ディーズ
ーGreen Good Deeds
地球が抱える問題を一緒に解決するために、環境大臣が中心となって、若者たちが参加する素敵な運動を始めました。この運動では、地球温暖化や気候変動について学び、自分たちでできることから始めて、より良い未来を作ろうとする気持ちを育みます。
JIGYASA
CSIR(産業科学研究委員会)は、Kendriya Vidyalaya Sangathans(KVS※)との協力で学生と科学者をつなぐプログラム「JIGYASA」を立ち上げました。このプログラムでは、子どもたちは研究室で本物の科学者と一緒に実験を行い、科学の面白さを体験できます。先生たちも一緒に参加するので、子どもたちは先生と一緒に科学の世界を探検できるでしょう。
このプログラムでは、38の国立研究所と1151のKendriya Vidyalayasがつながり、毎年約10万人の学生と約1000人の教師が対象になります。
※インド政府教育省傘下の機関で、インドの公立学校(転勤のある政府職員の子どもたちが通う。インド国内に1,250校、国外に3校)を管理、運営する組織。(2023年4月現在)
まとめ
インドは、科学技術分野で優秀な人材を育成することで、国全体の成長と発展を目指しています。この目標を達成するため、サイエンスクラブを通じて科学教育に触れる機会をつくったり、子どもたちの探究心を育むプログラムを開発したりと、科学教育の充実を推進しています。
日本は、長い歴史の中で培われた科学教育の伝統があり、世界からも高い評価を受けています。一方で、暗記中心の学習方法への疑問や、理系分野への進学希望者が減っているなどといったという声も聞かれます。
AIやITが急速に発展する現代社会においては、自ら考え、問題を解決できる能力が求められています。そのため、日本の科学教育も、変化に対応していく必要があります。
インドと日本、それぞれ異なる教育システムと文化を持ちながらも、科学技術教育において互いに学び合い、発展を遂げていくことが期待されます。
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