日本で多くの子どもたちが通う「塾」は、インドにも存在します。この記事では海外の塾事情が気になる方のために、インドの「塾」の種類や通塾率、そして実際に現地の塾を取材した様子をお伝えします。
コーチングセンターとテュイションクラスの違い
インドには主にコーチングセンターとテュイションクラスと呼ばれる2種類の塾があります。
コーチングセンターとテュイションクラスの主な違いは1クラスの人数とクラスの形式です。
テュイションクラス(Tuition class):
個別の生徒または少人数のグループに対して知識を提供する教室です。
グループは一般的に小規模であり、生徒は授業で1つまたは複数の科目の指導を講師に頼むことができます。講師は自分の授業のアレンジを行うこともでき、生徒の家で授業を行うこともあります。日本では個別指導塾または家庭教師に当たる塾になります。
コーチングセンター(Coaching Centre):
1つの建物内で、複数の講師が協力して行うチームワーク制の施設です。コーチングクラスの規模は一般的にテュイション・クラスよりも大きく、生徒たちは複数の講師や科目の専門家からの授業を受けることになります。
日本でいう一般的な集団指導塾に当たります。
他にも、クラスのサイズ、料金、対象受講生、柔軟性、教科・科目の選択、受講時間・講師の選択、学習の目的と目標に違いがあります。
表:インドコーチングとテュイションの比較
クラスの
人数 |
料金 | 場所 | 対象
受講生 |
受講時間
講師 |
教科
科目 選択 |
学習目的
目標 |
|
テュイション
クラス |
少ない | 高い | 施設/家 | 学習
のみ |
選択可 | 選択可 | 教科書
基礎 |
コーチング
センター |
多い | 安い | 施設 | 学習
以外も |
選択
不可 |
選択
不可 |
教科書外
発展 |
(Vedantu, 2023を元にShin Edupower作成)
クラスの人数:
テュイションクラスは1人または少数の生徒で構成されるため、個別の指導も行うことができます。コーチングセンターは1クラスの人数が多いため、集団指導となります。
料金:
テュイションクラスは1クラスの生徒数が少ないため、より高額な授業料がかかります。一方、コーチングセンターは受講する講座・学習パッケージの数等に応じて料金が設定されますが、比較的低価格で提供されています。
場所:
個別のテュイションクラスは日本でいう家庭教師のように通常生徒の家で行われます。コーチングセンターは生徒たちが塾のある建物、教室に通って授業を受けることになります。
対象受講者:
テュイションクラスは学生のみを対象にしていますが、コーチングセンターは学生以外も対象としており、教育やスポーツの指導なども行われます。
受講時間・講師の選択:
テュイションクラスは時間や講師を選択でき、生徒やその保護者の希望に沿った学習が可能になります。一方、コーチングセンターは、特定の講師と時間に従って授業を受けます。
教科・科目の選択:
テュイションクラスでは生徒が特定の教科書・科目を選択できますが、コーチングセンターでは講師側が選んだ科目全体または特定の教科書が提供されます。
学習の目的と目標:
テュイションクラスは基礎概念を学ぶことを目指す一方、コーチングセンターは発展的なスキルの向上に適しています。
テュイションクラスは教育委員会によって指定された教科書を基本的に使用します。そのため講師はそれぞれの学校によって設定された目標に従って学習を進めます。
一方、コーチングクラスは扱う教材を質・量ともに増やし、生徒の学習的な成長を促します。さらにそれぞれの教室では、教科書以外の補助教材も提供しながら学習を進めます。
通塾率
Open Edition Journalsの調査によると、2014年のインド3州のク9年生〜10年生の通塾率は、44.57%でした。(9年生=中学3年生、10年生=高校1年生)
(出典:K.Sujatha, 2014を元にShin Edupowerが作成)
上のグラフは、テュイションクラスの塾に通っている子どもたちの学年を示しています。青で表されているのが、日本で中学3年生にあたる9年生、赤は日本で高校1年生に当たる10年生です。どの州でも10年生の通塾率が高く、塾の需要が高校生から高くなっていることが読み取れます。
いつから通い始める?
コーチングセンターでは、学校の定期テスト、10・12年生(高校1年生・3年生)で実施される全国統一試験、学術オリンピック、奨学金試験、大学入学に向けた競争試験等、特定の試験に向けた対策講座が提供されています。
一般的にコーチングセンターには、大学の入学試験に向けて、11・12年生(高校2年~3年生)から通い始めることが多いようです。 一方で、大学の試験に向けて、9年生(中学3年生)、それ以下から、通い始める学生もいるようです。
インドのコーチングセンターでは、日本の塾とはシステムが異なり、子どもたちが受験を考えている特定の試験に向けたコースが存在し、受講する期間も決められています。そのため、そのコースに合わせて塾に通い始めるという子どもたちが多く、ほとんどの生徒が同じタイミングで塾に入るという状況があるようです。
実際のインドの塾の様子
インドの首都デリーにある塾で現地取材を行い、講師の方にインタビューを行いました。
英語で学ぶ子供たち
塾で子どもたちが使っていた教科書は英語で書かれており、子どもたちは基本的に英語で算数や社会の内容を理解していました。同様に子どもたちのノートも、主に英語でメモや問題演習が書かれていました。また、子どもたちと先生たちは、教材で使われている英語と日常的に使うヒンディー語を交えながら学んでいました。
塾では、英語の授業も提供していますが、他の科目の授業の中でも英語を使用しながら、学習に役立てていることがわかります。
画像:英語で書かれた社会の教科書
インドの答え合わせの印
画像:英語のノート
ノートを見ると、たくさんのチェックマークやバツ印がついています。日本では、どちらも間違いの印であるため、間違いの多いノートに見えてしまいますが、インドでは、正解の場合はチェックマーク、間違えた場合はバツ印をつけるのが通常です。
丸が一つもないノートは私たち日本人からすると少し不思議な感じがしますね。
画像:算数のノート
塾で大事にしていること
取材を受けてくださった塾の先生に、学びについて大切なことを中心にインタビューをさせて頂きました。
Q: 子どもたちが英語で他の教科を学んでいるのが印象的でした。
A:「そうですね。英語は特に世界共通言語ですし、インドで学問・職業上成功するステップにおいて英語はきわめて重要であるといえます。」
Q:インドでは、どのようなことを重視した教育が行われているのですか?
A:「どの教科を教えるうえでも、概念の要点を教えることが重要です。英語のABCなどをただ覚えるだけではなく、フォニックスや音、文、構文、文法等、ブロックを積み重ねるように、基本を固めていくことが大切です。そうしなければ、学年や学校が上に上がるたびに、学習が難しくなると考えます。」
「ゼロの概念」が生まれたインドでは、概念への理解や、基本への理解を重視した学習が推奨されていると考えられます。さらに、公用語として認められている英語は、多くの分野で活躍するために必要不可欠な能力になっており、インドの塾でも英語を使用した学習が主流になっているようです。
まとめ
インドにも日本のように塾があり、学習者のニーズに合った個別指導のものから集団指導を行うものまで、幅広い塾があることがわかりました。共通点も多い一方で、塾に通い始める時期や学習方法、勉強で重要視している点など、日本と異なる点も多くありました。欧米諸国では馴染みの薄い塾ですが、インドと日本では、子どもたちの学習を支える欠かせない存在になっています。
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Last Updated on 2024-04-16