驚きの多様性!インドの宗教と社会 (第1回)~歴史編~

インドは、豊かな文化遺産と精神性を擁する国として世界的に知られていますが、宗教的多様性でも有名です。その多様な宗教は、インドの歴史と文化を織りなす上で重要な要素となっています。本稿では、インドにおける宗教の共存とその歴史的背景や文化、日常生活に与える影響などについて、3回に分けて深掘りしていきます。宗教の多様性が現代のインドをどのように形作っているのか、見ていきましょう。

初回となる今回は、インドの多様な宗教とその歴史的な発展についてご紹介します。

 

インドの主要な宗教について

インドには多くの宗教が存在しますが、ヒンドゥー教が多数派を占め、続いてイスラム教、キリスト教、シーク教、仏教、ジャイナ教が続いており、それぞれがインドの豊かな文化に貢献しています。

ヒンドゥー教 (人口の約79.8%)、イスラム教 (14.2%)、キリスト教 (2.3%)、シク教 (1.7%)、仏教 (0.7%)、ジャイナ教 (0.4%)、その他少数派宗教 (0.9%)

出典:外務省「インド共和国基礎データ」を参考にSHIN EDUPOWER作成

 

【ヒンドゥー教】

ヒンドゥー教は現在人口の約8割の方が信仰しており、その起源は4,000年以上前ともいわれるインド最古の宗教です。ヒンドゥー教には、単一の創始者や単一の経典はなく、ヴェーダ、ウパニシャッド、バガヴァッド・ギーター、ラーマーヤナなどの多くの聖典があります。

ヒンドゥー教徒は、多くの姿を持つ至高神を信じています。最もよく知られている神々は、創造神であるブラフマー、維持神であるヴィシュヌ、破壊神であるシヴァです。ヒンドゥー教徒はまた、生命と自然のさまざまな側面を表す多くの神々や女神々も崇拝しています。

また、輪廻転生はヒンドゥー教の重要な信仰です。ヒンドゥー教徒は、魂は永遠であり、死後新しい肉体で生まれ変わると信じています。人生での行動 (カルマ) が次の生命の本質を決めます。究極の目標は、モクシャ (解脱) を達成し、輪廻転生のサイクルから解放され、神と一体化することです。寺院は重要な礼拝の場であり、聖地への巡礼も一般的です。

 

【イスラム教】

イスラム教は、人口の約14%の方が信仰をしているインドの主要宗教の一つです。7世紀にアラブの商人によってインドに伝えられ、その後デリー・スルタン朝やムガル帝国などの王朝を通じて拡大しました。

イスラム教徒は、唯一神であるアッラーを信じ、預言者ムハンマドの教えに従います。ムハンマドは最後の預言者とされています。イスラム教の聖典「コーラン」は、神がムハンマドにアラビア語で伝えたそのままの言葉が書かれているということです。

イスラム教には、5つの慣習があります。シャハーダ (信仰告白)、サラート (祈り)、ザカート (喜捨)、サウム (ラマダン中の断食)、ハッジ (メッカへの巡礼) です。モスクは、イスラム教徒が集まって祈りを捧げる重要な礼拝の場です。

 

【キリスト教】

インドにおけるキリスト教は古く、紀元後52年に使徒トーマスが到着したことにさかのぼります。使徒トーマスはケララ州に渡り、いくつかの教会を設立したと伝えられています

16世紀になると、ポルトガル人などのヨーロッパ人によるインドへの進出とともに、カトリック教会による布教活動が本格化しました。そしてインド独立後も、カトリック、プロテスタント、シリア正教など様々な教派が共存しています。

今日、キリスト教はインドで3番目に大きな宗教となっており、人口の約2.3%の人たちが信仰しています。信者たちは主に南インドのケララ州、ゴア州、そして北東部のナガランド州、ミゾラム州、メガラヤ州などに集中しています。

キリスト教徒は唯一神を信じ、イエス・キリストの教えに従います。信仰は、愛、慈悲、そして許しを重要視しています。

 

【シク教】

シク教は15世紀、パンジャーブ地方でグル・ナーナクによって創始されました。シク教は一神教であり、唯一神の存在を強く信じています。中心となるのは10人のグルの教えで、これらは「グル・グラン・サヒブ」という聖典にまとめられています。この聖典には、神への賛美歌や教え、そして社会正義に関する内容などが含まれています。

シーク教は、神とのつながりを深め、正直で勤勉な生活を送ることを大切にする宗教です。カースト制度を否定し、誰にでも平等に食事を提供するなど、奉仕の精神を重んじています。その一例として、シク教寺院(グルドワラ)では、ランガル(共同食堂)と呼ばれる無料の食事が人種・民族・国籍・シク教信者一切関係無く、参拝者全員に食事が振る舞われます。

 

【仏教】

仏教は、紀元前6世紀、ゴータマ・シッダールタよって興された世界的な宗教・哲学体系です。後にブッダと呼ばれるようになったゴータマ・シッダールタは、ルンビニ(現在のネパール)で生まれ、王子として裕福な生活を送っていました。しかし、宮殿の外に出ると、老い、病気、死といった避けられない人間の苦しみと直面することを知りました。こうした体験をきっかけに、彼はより深い洞察力と精神的自由を求めて王宮を離れました。

仏教は、苦しみから逃れるため、悟りを開くための方法を説いています。その方法は、四諦と八正道という教えに基づいたもので、悟り(ニルヴァーナ)を達成し、輪廻(サンサーラ)のサイクルから解脱するための道筋です。仏教は、瞑想や倫理的な生き方を通して心の平和を目指します。

インドの古典語である「サンスクリット語」は、「仏教用語」として現代の私たちも耳にする機会があります。例えば、「南無阿弥陀仏」のサンスクリット語は「namo amitaayus」(ナモ・アミターユス)もしくは、「namo amitaabha」(ナモ・アミターバー)と言い、発音がサンスクリット語の影響を受けているのです。

 

【ジャイナ教】

ジャイナ教は、仏教誕生と同時代の紀元前5~6世紀頃、ヴァルダマーナ(マハーヴィーラ:偉大な雄者)によって創始されました。インドで生まれたジャイナ教は、非暴力、不殺生、苦行を教義とする宗教です。アヒムサ(非暴力)、アパリグラハ(非所有)、アネーカーンタヴァーダ(多様性)といった哲学を基盤とし、すべての生命に対する敬意を重んじる厳格な菜食主義が特徴です。

まとめ

ヒンドゥー教、シク教、仏教、ジャイナ教は、カルマ(業)、輪廻、非暴力、倫理的な生活といった共通の価値観を持っています。また、宗教における菜食主義は、慈悲心と生命尊重を表しています。菜食主義の実践方法はそれぞれ異なりますが、いずれも食事を、霊的・倫理的信念の一部として取り入れています。

このようにインドは、世界でも類を見ないほどの宗教的多様性を誇る国です。本稿では、代表的な宗教を紹介してきましたが、それぞれがインドの歴史に深く根付いています。そして各宗教は、独自の教義や慣習を持ちながらも、長い歴史の中で相互に影響を与え合ってきました。

次回は文化に焦点をあてて、インドの宗教的多様性に迫っていきたいと思います。

 

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Last Updated on 2025-02-19